自動車整備工場の熱中症対策— 屋内でも義務化対象になるケース
公開: 2026年8月26日
自動車整備工場は屋根のある屋内作業場であるため、 熱中症対策の必要性を意識しにくい業種の一つですが、 実際にはピット内での作業や、 エンジンルームからの放熱、 シャッターを開けたまま作業する構造など、 屋外作業に近い熱負荷が生じる場面が少なくありません。
さらに、車両の下に潜り込むピット作業や、 塗装ブースでの作業など、 工場内でも作業内容によって熱環境が大きく異なる点も特徴です。 「屋内だから対象外」という思い込みで 対策を後回しにしている整備工場も少なくありませんが、 実際の作業環境がWBGT基準値を超えていれば、 屋内であっても義務化の対象になり得ます。 今日は、自動車整備工場特有の熱中症対策について整理します。 繁忙期には車検・点検の予約が集中し、 長時間の連続作業になりやすい点も見落とせないポイントです。 整備士は資格を持つ専門職であるがゆえに、 人手不足の中で無理をしてでも作業をこなそうとする傾向も 見過ごせないリスク要因といえます。
1. 屋内工場でも高温になる理由
1-1. エンジン・排気熱による放熱
整備中の車両のエンジン・排気系統からは 大量の熱が放出され、 工場内の気温を局所的に上昇させることがあります。
特に複数台を同時に整備する繁忙期には、 工場全体の温度が上がりやすくなります。 エンジンをかけたまま点検作業を行う工程では、 排気ガスの熱と換気の両立にも注意が必要です。 古い工場では換気設備自体が 現在の作業量に見合っていないケースもあり、 点検作業の頻度が増えた分だけ熱負荷も増している可能性があります。
1-2. ピット・地下構造での熱のこもり
車両下部を点検するピット内は、 風通しが悪く熱がこもりやすい構造になっていることが多く、 地上部より高温多湿になる場合があります。
ピット内での作業時間が長い整備士ほど、 熱中症のリスクが高まる傾向があるため、 優先的な対策対象として位置づける必要があります。 換気扇の増設や送風機の設置など、 構造上の弱点を補う設備投資も検討に値します。
1-3. シャッター開放時の外気流入
作業車両の出し入れのためにシャッターを 開放したままにする時間が長い工場では、 外気の熱がそのまま流入し、 屋外作業に近い環境になることがあります。
夏場はシャッター開放時間を意識的に短縮する工夫や、 スポットクーラーの活用が有効です。 入出庫の動線を見直し、 シャッターを開けたままにする時間そのものを 短くする工夫も合わせて検討する価値があります。
2. 義務化対象になるかどうかの考え方
2-1. 屋内・屋外を問わない基準
熱中症対策の義務化は、 屋内・屋外という区分ではなく、 実際の作業環境のWBGT値を基準に判断されます。
対象作業の考え方はこちらも参照してください。
2-2. エリア別の測定の重要性
整備工場内でも、 ピット内・塗装ブース内・一般作業スペースでは 温度環境が大きく異なるため、 工場全体を一つの数値で管理するのではなく、 エリアごとにWBGT値を確認することが望ましいです。
作業環境の記録のつけ方はこちらも参照してください。
2-3. 製造業との共通点
工場という作業環境である点で、 整備工場は製造業の熱中症対策と 共通する考え方が多く当てはまります。
製造業の熱中症対策はこちらも参照してください。
3. 現場での実践的な対策
3-1. スポットクーラー・送風機の配置
ピット周辺や作業台の近くに スポットクーラー・送風機を配置することで、 局所的な熱負荷を軽減できます。
全体空調の設置が難しい既存工場でも、 比較的低コストで導入しやすい対策です。 設置場所を工夫するだけでも 体感温度に大きな差が生まれることがあります。
3-2. 繁忙期の人員配置の見直し
車検・点検が集中する繁忙期には、 一人あたりの作業時間が長くなりがちなため、 交代制の導入や休憩時間の確保を 意識的に組み込む必要があります。
工場全体としての作業計画に 熱中症対策の視点を組み込むことが重要です。 予約受付の段階で 1日あたりの受け入れ台数に上限を設けることも、 間接的な熱中症対策として機能します。
3-3. 一人整備士・小規模工場への配慮
個人経営の小規模な整備工場では、 一人ですべての作業を担うことも多く、 自身の体調変化に気づきにくい環境があります。 取引先や顧客からの急な依頼に応えようとするあまり、 自分の体調を後回しにしてしまう傾向にも注意が必要です。
一人親方の熱中症対策の考え方はこちらも参照してください。
4. 記録・体制整備のポイント
4-1. 通年の暑熱職場としての位置づけ
整備工場はエンジン熱の影響から、 冬場でも局所的に高温になる場面があるため、 通年の暑熱職場として捉える視点が必要です。
冬も熱中症リスクがある通年職場の考え方はこちらも参照してください。
4-2. 中小規模工場の最低限の対応
大規模な設備投資が難しい中小規模の整備工場でも、 最低限実施すべき対策の考え方を理解しておくことが重要です。
中小企業における対策の最低限度はこちらも参照してください。
4-3. 発生時の記録・報告体制
熱中症の疑いがある事案が発生した場合の 記録・報告の手順をあらかじめ整えておくことで、 初動対応の遅れを防ぐことができます。 数名規模の工場であっても、 誰が第一発見者になっても同じ手順で動けるよう 簡潔な手順書を用意しておくことが望ましいです。
体制整備の報告手順はこちらも参照してください。
よくある質問
Q. エアコンの効いた工場でも対策は必要ですか?
全体空調があっても、 ピット内など空調が届きにくいエリアでは 局所的に高温になることがあるため、 エリアごとの確認が引き続き必要です。 空調の吹き出し口から離れた場所ほど 効果が届きにくい点にも注意しておくとよいでしょう。
Q. シャッターを閉めて空調を効かせるべきですか?
作業内容によりますが、 換気の必要性とのバランスを取りながら、 可能な範囲でシャッターの開放時間を 短縮する工夫が有効です。
Q. ピット作業と一般作業でWBGT基準は分けるべきですか?
作業エリアごとに環境が大きく異なるため、 可能であればエリア別に測定・管理することが望ましいです。 簡易的なWBGT計を複数配置するだけでも、 エリアごとの傾向を把握する第一歩になります。
Q. 一人経営の整備工場ではどう対策すればよいですか?
客観的に体調を確認してくれる人がいない環境だからこそ、 作業前後の水分補給や 定期的な休憩を自ら意識的にルール化することが重要です。 家族や取引先に自分の作業予定を共有しておくことも、 異変があった際に気づいてもらう手段になります。
まとめ
自動車整備工場は屋内作業でありながら、 エンジン熱・ピット構造・シャッター開放といった 要因によって熱中症リスクが高まる業種です。
エリア別の温度把握、 スポットクーラーの活用、 繁忙期の人員配置の見直しを組み合わせ、 通年の暑熱職場として継続的に対策を運用することが重要です。 屋根があるという安心感に流されず、 実際の作業環境を基準に判断する姿勢が欠かせません。 「屋内工場だから対象外」という思い込みを外すことが、 対策を始める最初の一歩になります。
本記事は運用の観点整理であり、法的助言・医療的な判断ではありません。
個別の症状・対応については専門家・医療機関にご確認ください。
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