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漁業・養殖業の熱中症対策— 船上作業とWBGT測定の難しさ

公開: 2026年8月26日

漁業・養殖業の現場は、 海上という開放的な環境にあるため熱中症のリスクが低いと 誤解されがちですが、 実際には強い照り返しや湿度の高さ、 長時間にわたる連続作業によって 熱中症のリスクは決して小さくありません。
さらに、陸上の作業とは異なり、 船が移動し続けることで 一般的なWBGT測定機器をそのまま使いにくいという 現場特有の課題もあります。 養殖業では海面での作業に加え、 陸上の加工施設での作業も並行して発生することが多く、 両方の環境でリスク評価が必要になる点も見落とされがちです。 今日は、漁業・養殖業における熱中症対策の考え方について整理します。 天候・潮位に左右される業務であるがゆえに、 対策を「今日は無理そうだから休む」という個人判断に委ねきりにせず、 事業として一定の基準を持つことが重要になります。

1. 海上作業特有のリスク要因

1-1. 水面からの照り返し

海面は太陽光を反射しやすく、 直射日光に加えて反射光による熱負荷が 陸上の作業以上に大きくなることがあります。
甲板の金属部分やコンクリート製の岸壁も 高温に達しやすく、 周辺の気温以上に体感温度が上昇する場面が少なくありません。 日陰を確保しにくい船上という環境特性上、 休憩のタイミングを逃さない意識づけが特に重要になります。 特に夏場の午前中から日差しが強まる時間帯は、 甲板作業に集中していると体感温度の上昇に 気づきにくくなる点にも注意が必要です。

1-2. 高い湿度と風の影響

海上は湿度が高くなりやすく、 汗が蒸発しにくいことで 体温調節がうまく機能しにくくなる場合があります。
一方で海風がある場合は体感温度が下がることもあり、 風の有無によって熱中症リスクの感じ方が 大きく変わる点も、漁業特有の難しさといえます。 風があるからといって安心せず、 実際の作業強度・水分補給状況を基準に判断することが重要です。 湿度計を積んだ簡易的な計測器を使う漁業者もいますが、 数値以上に本人の自覚症状に耳を傾ける姿勢が欠かせません。

1-3. 長時間の連続操業

漁の時間帯・潮の状況によっては、 長時間の連続作業を強いられることがあり、 計画的な休憩を組みにくい業務特性があります。
操業効率を優先するあまり、 休憩や水分補給が後回しになりやすい点は、 経営者・船長が意識的に是正していく必要があります。 一人乗りの船が多い個人経営の現場では 自己判断に頼らざるを得ない場面もあるため、 出港前の声かけや無線での定期連絡を 習慣化しておくことも有効です。

2. WBGT測定の難しさへの対応

2-1. 船上での測定機器の限界

船が移動し続けることで、 固定式のWBGT測定機器を設置しにくく、 測定値も気象条件によって 大きくばらつくことがあります。
可搬型の簡易測定機器を活用しつつも、 数値だけに頼らず、 現場の体感・作業員の様子を あわせて確認する運用が現実的です。 船の規模や航行範囲によって 使える機材にも制約があるため、 各船の実情に合わせた測定方法を選ぶ柔軟性が必要です。

2-2. 陸上拠点のデータを参考にする

船上での正確な測定が難しい場合、 最寄りの陸上拠点・気象観測地点のWBGT値を 参考情報として活用する方法もあります。
ただし海上と陸上では条件が異なるため、 あくまで目安として捉え、 実際の作業では余裕を持った安全側の判断を行うことが望ましいです。
熱中症警戒アラートと安全則の関係はこちらも参照してください。

2-3. 経験則との組み合わせ

長年の漁業経験を持つ船長・漁師の経験則は、 数値化しにくい貴重な判断材料になります。
経験則を否定するのではなく、 測定データと組み合わせることで、 より精度の高いリスク判断が可能になります。 ベテランの勘だけに頼り切ってしまうと 世代交代の際に判断基準が失われてしまうため、 経験則を言語化して記録に残す取り組みも重要です。

3. 現場での実践的な対策

3-1. 水分・塩分補給の徹底

船上では真水の確保が限られることもあるため、 事前に十分な量の飲料水を積み込み、 定期的な補給を促す仕組みが重要です。
作業に集中するあまり 水分補給を後回しにしがちな環境だからこそ、 時間を決めて全員で補給するルール化が効果的です。 経口補水液や塩分タブレットを 船に常備しておくことも、 手軽に取り入れられる対策の一つです。

3-2. 加工施設側の環境管理

養殖業・水産加工業では、 陸上の加工施設内の温度・湿度管理も あわせて必要になります。
作業環境の記録のつけ方はこちらも参照してください。

3-3. 暑熱順化への配慮

シーズン初めや新人漁業者にとっては、 急な猛暑での長時間作業が 大きな負担になることがあります。
暑熱順化の考え方を踏まえ、 作業強度を段階的に上げていく配慮が求められます。 例年よりも猛暑になった年ほど、 例年通りの作業ペースを見直す判断が求められる点も忘れてはなりません。 暑熱順化とは何かはこちらも参照してください。

4. 記録・体制整備のポイント

4-1. 船ごとの対策記録

保有する船や漁場ごとに、 実施した対策・発生した事案を記録しておくことで、 後から傾向を分析しやすくなります。 漁場によって日射や風の強さの傾向が異なるため、 漁場単位での傾向把握が今後の対策改善にもつながります。
現場別の証拠の出し方はこちらも参照してください。

4-2. 小規模事業者の対応

個人経営・小規模事業者が多い漁業では、 大がかりな体制構築が難しい場合もあります。
中小企業における対策の最低限度はこちらも参照してください。

4-3. 農業分野との共通点

自然環境に左右されやすい業務特性という点で、 漁業は農業分野と共通する課題を抱えています。
農業の熱中症対策はこちらも参照してください。

よくある質問

Q. 船上にWBGT測定機器を設置する義務はありますか?

測定機器の設置方法自体が明確に定められているわけではなく、 現場の実情に応じて代替手段を組み合わせた リスク管理が求められます。

Q. 海風があれば熱中症のリスクは低いと考えてよいですか?

風がある日でも湿度や作業強度によっては リスクが高い場合があるため、 風の有無だけで安全と判断すべきではありません。

Q. 家族経営の小規模漁業でも対策は必要ですか?

事業規模にかかわらず、 長時間の屋外作業を伴う以上、 基本的な水分補給・休憩の考え方は共通して重要です。 「昔からこのやり方でやってきた」という慣習も、 猛暑が続く近年の気候を踏まえて見直す価値があります。

Q. 漁の最中に体調不良を訴えた場合、どう対応すべきですか?

速やかに日陰・涼しい場所に移動させ、 水分・塩分補給を行い、 症状が改善しない場合は 早めに帰港し医療機関につなげる判断が重要です。 「もう少しで漁が終わるから」という判断で 対応を先延ばしにしないことが何より重要です。

まとめ

漁業・養殖業は、 水面からの照り返しや高い湿度、 長時間の連続操業といった特有のリスクを抱える一方、 船上でのWBGT測定には限界があります。
可搬型機器や陸上拠点のデータ、 経験則を組み合わせながら、 水分補給の徹底と暑熱順化への配慮を実践することが重要です。
海という自然を相手にする仕事だからこそ、 人の体調管理も自然任せにしない意識が大切です。
本記事は運用の観点整理であり、法的助言・医療的な判断ではありません
個別の症状・対応については専門家・医療機関にご確認ください。

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