テナントビル内の責任分界— 共用部とテナント
公開: 2026年9月2日
テナントビルでは、 エントランス・駐車場・機械室などの共用部と、 各テナントの専有部で作業主体が異なります。
「ビル全体の熱中症対策は管理会社任せ」と考えると、 自社従業員が働く専有部の記録や教育が 抜け落ちるリスクがあります。
本記事では、共用部とテナントそれぞれの責任分界と、 契約・掲示・記録の整理方法を解説します。
飲食テナントの厨房、 小売店のバックヤード、 事務所ビルのサーバー室付近など、 専有部でも高温作業が発生するケースは珍しくありません。
管理会社との覚書がなくても、 雇用主であるテナント事業者が 自社従業員の作業環境記録と教育を 整える必要があります。 共用部の情報は参考にしつつ、 専有部の責任はテナント側に残ります。
1. 責任分界の基本
1-1. 雇用関係と指揮命令
熱中症対策の義務は 原則として各事業者(雇用主)に 課されます。
テナント従業員の安全は テナント事業者、 ビル管理員の安全は 管理会社またはビルオーナーが担う、 という切り分けが基本です。
同一ビル内でも 雇用関係の所在が 責任の第一目安になります。 派遣社員は 派遣元・派遣先の 両方との契約も 確認してください。
1-2. 共用部での作業
荷捌き場、ゴミ置き場、 駐輪場の清掃など 共用部作業を 請け負うのが テナント側の場合、 その作業員への対策は テナントの責任になります。
管理会社が直接雇用する 清掃員への対策は 管理会社側の義務です。 契約書で作業範囲を 明確にしましょう。
共用部清掃の 発注先が 毎年変わる場合は 責任分界表の 「清掃」行を 更新し、 新ベンダーにも 周知してください。
1-3. 境界が曖昧な場所
共用廊下での搬入作業、 テナント前の荷下ろしなど、 境界が曖昧な場所は 事前の協議で 担当を決め、 掲示と記録の 主体を文書化します。屋内作業の義務化対象の判断も、 専有部か共用部かで 変わる場合があります。
曖昧な場所の リストを 責任分界表の 別紙として 作成し、 現場写真を 添付すると 後からの 説明に 使えます。
2. 管理会社・オーナーとの調整
2-1. 共用部の環境情報共有
共用部のWBGT・温度に 関する情報を 管理会社から テナントへ共有する 仕組みがあると、 テナント側の 判断材料が揃います。
共有頻度・連絡手段 (メール、掲示板、 テナントポータル)を 覚書に残しておきましょう。
情報が 届かなかった日は テナント側で 気象情報を 参照した記録を 残す運用も 有効です。
2-2. クールスポット・休憩スペース
共用の休憩室や エントランスの 冷房スペースを テナント従業員が 利用できるかは、 ビル規約で 確認が必要です。
利用可能な場合でも、 テナント側は 自社従業員への 周知と 利用記録の 残し方を 決めておきます。水分・塩分補給の整備記録と 整合させましょう。
共用休憩室の 利用ルール (時間帯、 飲食可否)も 従業員向けに 周知し、 トラブル防止に 努めてください。
2-3. 緊急時の連絡網
共用部で 体調不良者が 出た場合の 初動は、 管理室・ テナント双方の 連絡網を 接続します。
「誰が119番に 連絡するか」 「ビル全体の 避難誘導との関係」 を事前に決め、 年1回は テナント向け 説明会で 周知します。
説明会の 受講記録と 配布資料は テナント側で 保管し、 管理会社の 全体避難計画と 整合させてください。
3. テナント事業者が行うべきこと
3-1. 専有部の作業環境記録
厨房、店舗バックヤード、 事務所内のサーバー室付近など、 専有部の高温作業がある場合は テナントが測定・記録します。
作業環境記録の様式を自社で持ち、 管理会社の共用部データは 参考情報として添付する 運用もあります。
厨房の換気扇・ 空調設備の 点検記録も 夏季前に 更新しておくと 説明に有利です。
3-2. 教育・掲示
テナント従業員向けの 教育と、 専有部内の掲示は テナントの責任です。
共用部に貼る 掲示物で 管理会社の許可が 必要な場合は、 申請フローと 更新履歴を残します。
掲示更新時は 旧版を撤去し、 撤去日と 新版掲示日を 記録に残す 運用を 徹底してください。
3-3. 搬入・搬出時の一時作業
共用部での 短時間作業でも、 WBGTが高い日は 休憩・水分補給の 指示と記録が 必要です。
「すぐ終わるから」で 記録を省略しないよう、 現場監督者の 権限を 明文化しておきましょう。
搬入作業は 15分超の 場合は 作業環境記録の 対象とし、 温度・ 休憩取得を 簡易記録する 運用を 推奨します。
4. 記録と説明の実務
4-1. 責任分界表の作成
項目(測定、教育、掲示、 初動、設備整備)ごとに 「管理会社/テナント/共同」を 一覧化した責任分界表を作り、 双方署名した覚書として 保管します。
分界表は 年1回以上見直し、 テナント入退居や 業態変更があった場合は 随時更新します。 更新履歴も 覚書の 付表として 残してください。 双方の担当者名と 確認日も 記載しておくと 後からの説明に 使えます。 覚書は契約更新時にも必ず見直してください。
4-2. 監査・立入時の説明
労基署立入時は、 テナントは自社専有部の 記録を説明し、 共用部は管理会社と 分担して説明する 準備をします。
体制整備の報告資料に 責任分界表を 添付すると 説明がスムーズです。
立入前に 専有部の 記録索引を 更新し、 未入力期間が ないか 確認しておきましょう。
5. 業態別の責任分界例
5-1. 商業施設(SC)の例
共用廊下・フードコート客席・駐車場は 管理会社(オーナー)側、 各テナントの厨房・バックヤードは テナント事業者側、 という切り分けが基本です。
荷捌き用の共用搬入口で テナント従業員が作業する場合は、 事前の覚書で 「測定主体」「初動連絡先」を 決めておきます。
5-2. 責任分界表のひな形
| 項目 | 管理会社 | テナント |
|---|---|---|
| 共用部WBGT測定 | 主担当 | 情報受領 |
| 専有部作業環境記録 | — | 主担当 |
| 従業員教育 | 管理員向け | 自社従業員 |
| 共用休憩室の利用 | 設備管理 | 従業員周知 |
| 搬入時の一時作業 | 共同協議 | 作業指示・記録 |
5-3. 新規入居時の説明
テナント入居時の 安全衛生説明会で 責任分界表を配布し、 署名または受領確認を残します。
入居後に業態が変わり 厨房設備を増設した場合も、 専有部の記録義務が テナント側に残ることを 再周知しておきましょう。
よくある質問
Q. テナントはビル全体のWBGT測定をしなくてよいですか?
共用部の測定主体は 管理会社側であることが多いですが、 自社従業員が共用部で作業するなら、 その環境情報を入手・ 記録に反映する責任は テナントに残ります。
管理会社から 毎朝のWBGT情報を メールまたはポータルで 受け取るルールを 覚書に残しておきましょう。
Q. フードコートの厨房は誰の責任ですか?
各テナント(飲食店)の専有部であれば 各店の事業者が対策・記録を行います。 共用の食事スペースの空調・掲示は 管理会社との分界を確認してください。
厨房の換気・空調は テナント側の設備管理であり、 WBGT測定と 作業環境記録も 各店が担います。
Q. 管理会社が教育を一括実施する場合、記録は誰が残しますか?
受講者の雇用主である各テナントが 受講記録を保管するのが原則です。 一括実施の場合は 名簿・签到・内容を テナントへ回付するルールを決めましょう。
回付期限と 未回収時のフォロー担当を 覚書に明記しておくと 記録漏れが減ります。
Q. 駐車場での待機作業は?
共用駐車場での待機・荷物待ちも 作業環境の評価対象になり得ます。 テナント従業員が関与する場合は テナント側で記録と対策を行います。
車中待機時の エアコン利用ルールも テナント従業員向けに 周知しておきましょう。
Q. 責任分界で争いが起きたら?
契約・覚書・過去の協議メモを 根拠に協議します。 日頃から分界表を更新し、 新規テナント入居時にも 説明しておくと トラブルが減ります。
争点となった項目は 分界表に追記し、 双方署名した 改定版を保管してください。
まとめ
テナントビルでは共用部と専有部で 責任主体が分かれます。
管理会社との環境情報共有、 責任分界表、 テナント専有部の記録・教育を セットで整え、 境界の曖昧な作業は 事前協議で決めておきましょう。
入居時・契約更新時に 責任分界表を 双方確認する習慣を つけると、 夏季前の混乱を 防げます。
注意
本記事は運用の観点整理であり、法的助言・医療的判断ではありません。
個別の症状・対応については専門家・医療機関にご確認ください。
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